2021年1月29日金曜日

古書探訪 vol.4

 寄稿したテキストを加筆修正、再掲します。

“Project Gutenberg” (プロジェクト・グーテンベルク)のサイトから手作り石けん愛好家の皆さんにおすすめの古書を紹介するコラム全5回の連載を担当しました。

テキスト中のタイトルをクリックすると、プロジェクト・グーテンベルクのサイト内の電子書籍をブラウザ上で閲覧できます。

プロジェクト・グーテンベルクについての紹介記事は "古書探訪 はじまり" をご覧ください。

vol. 4
ハタヤ商会 AYA


最終回なので、これまで紹介しきれなかった本をまとめて紹介します。


『花言葉』ケイト・グリーナウェイ
Language of Flowers”  Kate Greenaway, George Routledge and Sons (1884)

『花言葉』より、中扉
グリーナウェイの描くビクトリアンスタイルに
当時の人々は夢中になったそうです。

イギリスのヴィクトリア朝時代の花言葉集です。
ノスタルジックな挿絵や装飾が麗しい。


『花言葉』より
帽子にデコレーションしているのは白いばらでしょうか。
白いばらの花言葉は「わたしは、あなたにふさわしい」 

そう思って眺めると絵の印象が変わりますね

ばらの花言葉が34個ずらりと並んでいたり、「わたしの解毒剤」「早く取り付けて」「美しいなんて呼ばないで」など、どんなシチュエーションで使うのか想像するのも楽しい不思議な花言葉も登場したり(どの花か探してみてくださいね!)…
のんびり眺めるのにおすすめの1冊です。


『女王の愉しみ もしくはフルーツの保存法、香水の作り方と上等な芳香水の蒸留法』
作者不詳
Anonymous, E. Tyler, and R. Holt(1671)

これはまた長いタイトル! 
17世紀イギリスの婦人向け実用書です。
ハーブやフルーツを使った料理やハウスキーピング、化粧水、クリームなどのコスメティックスのレシピなど生活全般の知恵がたくさん。
350年前の人々も現代のわたしたちと同じようなことをしていたのですね。
当時の著名人が考案、愛用していたレシピや再現できそうなレシピも多数。「ラズベリーのワイン」は作りやすくて、とってもおいしかったです。


『ハーバル 近代植物学の起源と進化』アニエス・アーバー

近代ヨーロッパの本草学史、植物学史の文献と著者を紹介した本です。
収録されている豊富なイラストレーションがすばらしく、古い時代のラテン語のフォントや木版画による植物画などとても格好いい。

“PIONIA” ピオニー、牡丹です。
このデフォルメされた線の愛らしさ!

ちょっと不気味な伝説上の植物画も好奇心を刺激します。大好きな1冊です。

“MANDRAGORA”
マンドレイク(マンドラゴラ)は引き抜くときに悲鳴を上げ
聞いてしまうと死に至ると信じられていました。


古書探訪、ひとまずお仕舞いにいたします。
皆さんも本とのすてきな出逢いを!


初出  "soapy soaping vol.5" 2020年6月20日発行

芥子 l' oppio

 この花の花言葉、


妄想、怠惰、忘却、眠り、

それから、わたしに毒。

l'opium 芥子

椿油、ごま油、米油、パーム油、ココナツ油、

パーム核油、メドウフォーム種子核油

精油
ジュニパーベリーCO2、ベルガモットBF、クラリセージ、
ゼラニウム・ブルボン、コニャック、
サンダルウッド・マイソール、パチュリ

ブルーポピーシード

軽い酩酊をもたらすような
陶酔感のある香り

時には、自堕落な快楽に耽る妄想
に耽るのもいいかも。


Ça vous permet d'absorber le plaisir décadant,
sans Opium.

これ、は入っていませんが


Sans Actinidia, aussi...

またたび、も入っていませんが


きっと、虜。

旧ブログ『ハタヤ商会の手作り石けん』2011年9月30日より転載

昔の記事ですが好きな石けんなので。
この石けんを作ったときに前記事 古書探訪 vol.2 で紹介した “Les fleurs animées - Tome 1” の芥子を思い出していたような気がします。

2021年1月7日木曜日

古書探訪 vol.2

寄稿したテキストを加筆修正、再掲します。

“Project Gutenberg” (プロジェクト・グーテンベルク)のサイトから手作り石けん愛好家の皆さんにおすすめの古書を紹介するコラム全5回の連載を担当しました。

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vol. 2

ハタヤ商会 AYA

『レ・フリュール・アニメ』 J.グランヴィル絵 T.ドロール著

“Les fleurs animées - Tome 1” 

J. J. Grandville, GARNIER FRÈRES, LIBRAIRES-ÉDITEURS (1867)

https://www.gutenberg.org/ebooks/54972


19世紀のフランス人画家、グランヴィルが描く大人の童話集です。

擬人化された花々が織りなす不思議で幻想的な世界。

表紙

花と蔓でタイトルを描いています
葉に記されているのは著者のグランヴィルとドロール、
監修の植物学者カールの名前です

きれいなだけでなく少し妖しい花のイラストレーションや美しいフランス語は、プリントアウトして飾ったり、石けんを包んだりしてもすてきです。


おすすめポイント

1. ドロップキャップ

ドロップキャップとは、洋書に見られる章のはじめの文字を大きくしたスタイルです。

この本ではドロップキャップが植物を組み合わせた飾り文字になっています。罫や枠などの装飾も洒落ていて、19世期のスタイルがお好きな方にはたまらないのではないでしょうか。

優雅なドロップキャップ


2. 花の擬人化

“la rose” (ばら)、”la camélia”(椿)、”la fleur d’oranger”(オレンジフラワー)、”le Myrte et le Laurier” (マートルとローレル)など、石けんの素材としておなじみの植物が登場します。花が人間だったらこんな風に話し、振舞うのだろうなと想像すると、それぞれの花への印象が深まります。

Églantine 野ばら
ローズヒップの首飾りとブレスレットをしていますね
とげと表情が何やら勇ましい

Fleur de Grenadier ざくろの花
人々を魅了する踊り子の彼女は、天真爛漫な娘です

Pavot 芥子の花
物憂げなどこか陶酔するような表情
花言葉は「眠る心」

Guimauve マーシュマロウ
彼女は修道院の看護師です
暑さで弱ったカエルとバッタを優しく看病しています

3. フランス語

フランス語の響きが好きなかたは、ぜひ一読を。花の名前をもじった言葉遊びや詩のようなリズムで綴られた文章は、声に出して読みたくなるかもしれません。

37ページから始まる "Comment le poéta Jacobus…” (詩人ジャコブと花言葉のおはなし)に挿入された花言葉や花曜日、花時間!の一覧は覚えておくと、いつか役に立ちそうですね。


初出 "soapy soaping vol. 3" 2020年5月20日発行


グランヴィルに興味を持ったかたにおすすめの本です。
amazonの商品詳細ページにリンクしています。

J.-J.グランヴィル画/T.ドロール著/谷川かおる訳/荒俣 宏解説

“Les fleurs animées ”の日本語版
全訳ではありませんが、荒俣氏の解説がすばらしい



グランヴィルの絵と出会って人生が変わったという鹿島茂のグランヴィルコレクション
“Les fleurs animées ”の挿絵も数点掲載されています


古書探訪 vol.3

 寄稿したテキストを加筆修正、再掲します。

“Project Gutenberg” (プロジェクト・グーテンベルク)のサイトから手作り石けん愛好家の皆さんにおすすめの古書を紹介するコラム全5回の連載を担当しました。

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vol. 3

ハタヤ商会 AYA


『コロニアル・デイズの子どもたち』より『リメンバー・ビドルの石けん作り』 
Carolyn Sherwin Bailey, A. FLANAGAN COMPANY CHICAGO (1925) 


1800年代後期アメリカの開拓時代を舞台にした「大草原の小さな家」と聞くと
「ああ! ロバートソン夫人が獣脂と灰汁で石けんを作っていた!」
ととっさに頭に浮かぶ皆さんにおすすめです。

「大草原の小さな家」の開拓時代より約100年前の植民地時代を舞台にした子ども向けの短編集では、当時の子どもたちの物語が清教徒の暮らしや歴史上の人物、出来事などとともに綴られています。

第5話 "THE JACK-O’-LANTERN WITCH"  より
ワンピースに帽子とネッカチーフ…
素朴でかわいいファッションも見どころです。

当時の清教徒はキャンドルや石けんなどの生活必需品は自家製を使うべし、とされていました。
そうです! 
3つ目のおはなし “The Soap Making of Remember Biddle” では手作り石けんが主役級に登場します。

12歳の女の子リメンバーが、これまでお母さんの石けん作りを手伝ってきたのだから一人でも作れるわ、と留守番中に石けんを作り始めます。
石けんを作ったおかげで彼女はある災難を逃れることができるのですが、皆さんの読む楽しみのためストーリーについては詳しく書かないでおきますね。


おすすめポイント

1 材料は灰汁と脂
リメンバーは麦わらと木の灰、水から灰汁を作り、十分に使えるアルカリ液になったかを生卵を使って確認しています。指がアルカリ液に触れないように、きちんと気をつけながら! 
油脂も脂身や廃油から精製しています。
むかしの家庭での石けん作りの様子がくわしく描写されていて、手作り石けんのルーツを間近に眺める心地です。

主人公のリメンバーが石けんを作っているところです。

大きな樽ですね! 底には穴が開いています。
麦わらと木の灰を濾してアルカリ液を用意し、
下のバケツに溜めて石けん作りに使います。


2 モラセスキャンディみたい
当時、家庭での石けん作りはコールドプロセスではなくホットプロセスが一般的でした。くつくつ煮た “soft soap” (石けん)はとろりとした茶色のゼリー状で「モラセスキャンディのよう」と表現されています。草の灰から作るアルカリを使っているので出来上がった石けんはカリ石けんのようなペースト状なのでしょう。
石けんの作り手ならではの想像が広がる描写です。


3 キャンドルやハーブ
ハーブについての記述や、別のおはなしではキャンドルを作る描写も。
リメンバーのお母さんはハーブを煎じる腕前が評判です。そのため遠くの村人の看病に出かけることになり、リメンバーは留守番をしていたのでした。

第4話 “THE BEACON TREE” より
ディッピングキャンドルを作っている様子

使い古したキャンドルや獣脂を溶かして原料にしていたようです。
この場面では溶かした牛脂にキャンドルの芯を繰り返し浸して
クリスマスキャンドルを作っています。


1925年の作品ですから先住民族についてなど、現代とは違った視点で書かれている事柄もありそうです。
歴史に詳しいかたには歴史観の移り変わりも興味を引くのではないかと思います。


初出  "soapy soaping vol.4" 2020年6月10日発行

2021年1月6日水曜日

古書探訪 vol.1

寄稿したテキストを加筆修正、再掲します。

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vol.1
ハタヤ商会 AYA

『調香の技法』セプティマス・ピエス著

“The Art of Perfumery”  G. W. Septimus Piesse, Lindsay And Blakiston (1857)

https://www.gutenberg.org/ebooks/16378



19世紀の調香書を紹介します。著者のピエスはトップノート、ミドルノートなどの香りの揮発速度による分類「ノート」を考案した調香師です。

この本に記載された、人工の香料や素材が少ない時代の香水やコスメティックのレシピはまるで現代の手作りコスメのようです。精油とアルコールで作る香水や、オイルとワックスで作るリップクリームなど。今ではあまり見かけない素材も使われてはいますが、レシピを再現しようと思えばできるなんて嬉しいかぎりではありませんか。


おすすめポイント

1. 実はタイトルが長い

扉に記されたタイトルは『調香の技法および植物の芳香を採取する方法 ーハンカチーフ用香水、匂い粉、嗅ぎ薬、歯磨き粉、ポマード、コスメティック、芳香石けん等々 各種製造法』

タイトルを目にするだけで読みたい気持ちがこみ上げてきますね。


2. 試したくなるレシピが多数

シプレ水、ハンガリー水、オー・デ ・コロンなどの古典的な香水をはじめ、塩やアンモニアベースの嗅ぎ薬、アルコールランプを用いるルームフレグランス、クリーム、匂い紙などさまざまな用途の香水やコスメティックのレシピがたくさんです。


3. 石けんも登場!

“Section Ⅷ” (8章)は丸ごと石けんの章です。くわしい石けんの製法は省かれていますが、石けん素地が数種類そして石けん素地を組み合わせて精油で香りをつける石けんのレシピが紹介されています。アーモンド・ソープ、薬用石けんに透明石けん、石けんの着色の方法など、きっと興味を惹かれることでしょう。石けんの形成工程を表した古風なイラストレーションもすてきです。


19世紀の香りを再現してみましょう

EAU DE COLOGNE, La deuxième qualité(オーデコロン 二等品)


本書の SectionⅥ の中ほどに記載されたオーデコロン のレシピを紹介します。

賦香率は2%にも満たない、現代だとオーデコロンではなくオーフレッシュに近い軽い仕上がりです。


材料

アルコール 90度 50ml

プチグレン 2滴

ネロリ 1/2滴

ローズマリー 2滴

オレンジスイート、レモン、ベルガモット 各4滴


作りかた

材料をよく混ぜて2−3日寝かせたのち、香水瓶に移す。


オリジナルのレシピは大バッチですから個人で作るのに実践的なバッチサイズにアレンジしています。

アルコール濃度の記載がないため  “EAU DE COLOGNE, La première qualité ” (オーデコロン 一等品)と同じ60オーバープルーフ(約90度)を用いました。

帝国単位からメートル法へ換算後に、きりのいい数字に変更しました。


初出  "soapy soaping vol.2" 2020年5月10日発行


“The Art of Perfumery” のペーパーバック版は、こちら

amazonの商品詳細ページにリンクしています。




古書探訪 はじまり

寄稿したテキストを加筆修正、再掲します。

使用した画像は2020年4月の執筆時のものを引用しています。 


ハタヤ商会 AYA

連載開始です。

“Project Gutenberg” (プロジェクト・グーテンベルク)というサイトをご存知ですか。著作権の切れた洋書をおもに電子化して公開している電子図書館です。著名な文学作品はもちろん、ハーブや石けん製造の本なども読むことができます。しかも無料で。

このコーナーでは、このサイトから手作り石けん愛好家の皆さんにおすすめの古書を紹介してゆきます。

初回はサイトの利用方法です。


*画像は2020年4月の表示画面です


画面上部の “search for books” (本を検索)と書かれた検索ボックスに読みたい本のタイトル、著者名、キーワードなどを半角英数文字で入力します。

”soap” と入力してみましょう。

*画像は2020年4月の表示画面です
現在は上部のバーに表示される"Search and Browse"(検索と閲覧)のプルダウンメニューから"Book Search"(本の検索)を選び検索をします。

検索結果が表示されます。

読みたい本をクリックします。”Soap-Making Manual” を選んでみます。



 

4

読む形式を選ぶ画面が表示されます。

Read this book online (オンラインで読む)、EPUB with images (イラスト付きの電子書籍版をダウンロード)、EPUB no images (イラストなしの電子書籍版をダウンロード)、kindle with image(イラスト付きのkindle版をダウンロード)…などから選べます。

Read this book online” (オンラインで読む)を選んでみます。




本が表示されました。これで、この本をブラウザ上で読むことができます。


“Soap-Making Manual, A practical handbook on the raw materials, their manipulation, analysis and control in the modern soap plant” By E. G. Thomssen, Ph. D. New York, 1922

『石けん製造マニュアル ー現代石けん工場における原材料、取扱および分析と管理の実践ハンドブック』といったところでしょうか。1922年ニューヨークで出版、著者はトムセン博士。

“TABLE OF CONTENTS” (目次)をざっと眺めてみてください。油脂、酸敗を防ぐには、コールドプロセス、化粧石けん、薬用石けん、キャスティール石けんに透明石けん…と、おなじみの語句が並んでいます。

こんな風に約100年前の石けん事情にアクセスできるなんてわくわくしませんか。


次回から毎回本を1冊ずつ紹介してゆきます。

乞う、ご期待!


初出 "soapy soaping vol.1" 2020年4月20日

2020年12月29日火曜日

リモーネ Limone

 レモン果汁を使った石けん

静謐なレモンそのものの香りと、ふくふくとした軽く柔らかい泡がすてきです。

洗面所やバスルームにいくつか石けんを並べている中で、つい手に取っているのはこの石けんです。

泡切れがよく髪からつま先まで全身につかって気持ちいい。


リモーネ
Sapone Limone

オリーブオイル
米油
ひまし油
ココナツ油
パーム油
ホホバオイル

レモン果汁

二酸化チタン
マイカ(グリーン)

精油
ベルガモット
レモンマートル
レモングラス
ラベンダー
ローズウッド
フランキンセンス
カルダモン

ベルガモットBF、レモンマートル、レモングラス、ラベンダー、ローズウッド、フランキンセンスを、3:1:1:1:0.5:0.5 の割合でブレンドし、カルダモンを少々加えています。

合わせたてはレモンマートルのウッディーな香りとレモングラスの草っぽい香りが強くて気になるのですが、熟成を終える頃にはほどよくなじみます。


レモン果汁を加えたアルカリは鮮やかなオレンジ色


型入れ時の生地はイエローオレンジ



乾燥を終える頃には、かすかにイエロー味を帯びたベージュに


レモンの精油は石けんに入れると残りにくいので、ブレンドを工夫してレモンの香りを目指します。

レモニーなシトラス調をメインにさやわかな苦味と温かさを感じる甘さを少し。

ピールから弾けるクリアなほろ苦さ、陽射しを浴びて輝く果実のレモン色、レモンプチグレンの枝や葉のグリーンな香りなども感じ取れる香りにしあがりました。