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2021年1月7日木曜日

古書探訪 vol.3

 寄稿したテキストを加筆修正、再掲します。

“Project Gutenberg” (プロジェクト・グーテンベルク)のサイトから手作り石けん愛好家の皆さんにおすすめの古書を紹介するコラム全5回の連載を担当しました。

テキスト中のタイトルをクリックすると、プロジェクト・グーテンベルクのサイト内の電子書籍をブラウザ上で閲覧できます。

プロジェクト・グーテンベルクについての紹介記事は、"古書探訪 はじまり" をご覧ください。

vol. 3

ハタヤ商会 AYA


『コロニアル・デイズの子どもたち』より『リメンバー・ビドルの石けん作り』 
Carolyn Sherwin Bailey, A. FLANAGAN COMPANY CHICAGO (1925) 


1800年代後期アメリカの開拓時代を舞台にした「大草原の小さな家」と聞くと
「ああ! ロバートソン夫人が獣脂と灰汁で石けんを作っていた!」
ととっさに頭に浮かぶ皆さんにおすすめです。

「大草原の小さな家」の開拓時代より約100年前の植民地時代を舞台にした子ども向けの短編集では、当時の子どもたちの物語が清教徒の暮らしや歴史上の人物、出来事などとともに綴られています。

第5話 "THE JACK-O’-LANTERN WITCH"  より
ワンピースに帽子とネッカチーフ…
素朴でかわいいファッションも見どころです。

当時の清教徒はキャンドルや石けんなどの生活必需品は自家製を使うべし、とされていました。
そうです! 
3つ目のおはなし “The Soap Making of Remember Biddle” では手作り石けんが主役級に登場します。

12歳の女の子リメンバーが、これまでお母さんの石けん作りを手伝ってきたのだから一人でも作れるわ、と留守番中に石けんを作り始めます。
石けんを作ったおかげで彼女はある災難を逃れることができるのですが、皆さんの読む楽しみのためストーリーについては詳しく書かないでおきますね。


おすすめポイント

1 材料は灰汁と脂
リメンバーは麦わらと木の灰、水から灰汁を作り、十分に使えるアルカリ液になったかを生卵を使って確認しています。指がアルカリ液に触れないように、きちんと気をつけながら! 
油脂も脂身や廃油から精製しています。
むかしの家庭での石けん作りの様子がくわしく描写されていて、手作り石けんのルーツを間近に眺める心地です。

主人公のリメンバーが石けんを作っているところです。

大きな樽ですね! 底には穴が開いています。
麦わらと木の灰を濾してアルカリ液を用意し、
下のバケツに溜めて石けん作りに使います。


2 モラセスキャンディみたい
当時、家庭での石けん作りはコールドプロセスではなくホットプロセスが一般的でした。くつくつ煮た “soft soap” (石けん)はとろりとした茶色のゼリー状で「モラセスキャンディのよう」と表現されています。草の灰から作るアルカリを使っているので出来上がった石けんはカリ石けんのようなペースト状なのでしょう。
石けんの作り手ならではの想像が広がる描写です。


3 キャンドルやハーブ
ハーブについての記述や、別のおはなしではキャンドルを作る描写も。
リメンバーのお母さんはハーブを煎じる腕前が評判です。そのため遠くの村人の看病に出かけることになり、リメンバーは留守番をしていたのでした。

第4話 “THE BEACON TREE” より
ディッピングキャンドルを作っている様子

使い古したキャンドルや獣脂を溶かして原料にしていたようです。
この場面では溶かした牛脂にキャンドルの芯を繰り返し浸して
クリスマスキャンドルを作っています。


1925年の作品ですから先住民族についてなど、現代とは違った視点で書かれている事柄もありそうです。
歴史に詳しいかたには歴史観の移り変わりも興味を引くのではないかと思います。


初出  "soapy soaping vol.4" 2020年6月10日発行